Jeux de mots

今月のことばあそび

毎月変わるお題と文字数に合わせて、自由に自己表現を楽しむ場所

4月 – テーマ:果物(Fruit) – 字数制限:400字

Miyako Ebata <MUSIQUE>

エリック・サティという奇妙な作曲家がいた。
彼は自作品に《梨のための3つの小品》という奇妙な名前をつけた。
これだけでなく《犬のためのぶよぶよした前奏曲》など、サティ以前の形式的な音楽作品と逸した奇妙なタイトルの作品も多い。タイトルを耳にしただけで歯と顎がむず痒くなる。

歯切れの良い音がする日本の梨と異なり、柔らかさが特徴の梨はフランス語でpoire(ポワール)という。「お人好し」や「間抜けな」などの別の意味も持つ単語である。フランスという国において明るい意味を持たない果物ではあるが、個人的にはその断面図に毎回愛おしさを感じる。日本の梨は「NASHI」としてフランスでも販売されているが、人気なのは「お人好し」のポワールである。八方美人なのか、それもわかっていないのか、なんだか自分自身に重ねて、この曲を聴くと少々暗い気持ちが浮遊する。

エリック・サティ《梨のための3つの小品》

メロン

Kazu Fujimoto <LITTÉRATURE>

Chapeau melonと呼ばれる帽子がある。丸みをおびた形をしており、果物のメロンに似ているからその名がついたのだそう。日本語では山高帽と言われるが、この訳ではメロンより前に流行ったChapeau haut-de-formeという帽子と混同してしまう。こちらはシルクハットという名の方が知られているが、空へと垂直に伸びた形から「ストーブの煙突」とも呼ばれていた。メロンよりは美味しくなさそうだ。ところで先日、あるギフトショップでルネ・マルグリットの『恐ろしい栓(Le Bouchon d’épouvante)』のクッションが売られていた。謎めいたタイトルのこの絵には山高帽が描かれており、帽子には「外用(usage externe)」と書かれている。社交のアイテムだから確かに「外用」である。でも皆がこの帽子を被って、「社交中」と言わんばかりに挨拶を交わす場面を想像するのも面白い。もっとも「外用」とは普通、体に塗る薬用品に使う言葉であることを考えれば、「chapeau(帽子)」と「peau(肌)」の駄洒落も感じられるだろう。 

傷口からイチゴジャム

Mio Akamatsu <ART>

心臓の半分を失った。
そんなとき、地元の農家さんからイチゴをいただいた。

神への慈愛の象徴、イチゴ。
絵画では、「聖愛」や「純粋」の意味として、
聖母マリアとともに描かれる。

けれど私が受け取ったその「純愛」はすっかりくたびれ、
熟して赤黒くなっていた。

海辺のキッチン、夜。
500gのイチゴに、200gの砂糖を加える。
グツグツと、赤い液体が煮えている。
せっせとアクを取る。
愛情を注ぐ程、美味しくなるのだ。
心臓から流れ出る鮮血と同じ色になったところで、
火を止めた。

鍋の前で立ったまま啜る。
熱さのあとに、果実と砂糖の甘さ。
そのとき自分の姿がゴヤ*の『我が子を喰らうサトゥルヌス』のように思えた。
愛を失いたくない私は、それくらい狂気じみている。

自分の心臓の半分くらいの質量のそれを、瓶に詰める。
小さな春を冷蔵庫の中に持っていたい、まだ。

*フランシスコ・デ・ゴヤ(Francisco de Goya, 1746–1828)スペインの画家・版画家