Jeux de mots
今月のことばあそび
毎月変わるお題と文字数に合わせて、自由に自己表現を楽しむ場所

12/17より前に書かれた「12/17」の日記
昼ご飯を終えてぼんやり外を眺めていると、遠くの建物の屋根に人がいるのが見える。最初のうちは工事の作業員かと察するが、今はお昼どきだから作業は中断しているはずだ。
カメラの望遠機能を使ってよく見てみると、どうやら中学生くらいの男子であることが分かる。4人の男子が、縦一列に並んで、てくてくと屋根の上を歩いている。パリでは建物と建物とが繋がっているところがあるので、屋根伝いにある程度移動ができるのだ。ちょこっとジャンプしてみたり、それを別の男子が撮影したりするところを見れば、彼らの行為が遊びの一環であることは明白だ。ひやひやして見ていたが、かなり距離があるため僕にはどうすることもできない。
彼らはあるところで立ち止まる。それから散り散りに色んなところを行ったり来たりを繰り返し、また一つに固まって、最後は座っておしゃべりを始める。そうして30分くらいいただろうか、また来たところへと戻っていく。
あえて危険をおかしながら日常の裂け目を期待したのかもしれない。しかし建物はどこまでも続くわけではない。何だこんなものかと思いながらも、それでも各々行けるところまで行ってみる。それでも何も起きないから、最終的には座って駄弁る。そんな彼らの好奇心と幻滅を同時に想像しながら、少し憂鬱になる。
今日は久しぶりの晴れだ。最近のニューヨークは、雪やらみぞれやらが降っていた。
起きてすぐの今、日記を書いている。
顔を洗う前、コーヒーを飲む前の自分は、まだ昨日の自分だと思っている節がある。
最近は昨日のことを朝、今日の日記のように書く。
朝はリビングで立って書く。家の中をコソコソ動きすぎて昨日の記憶が脳みそからこぼれ落ちることを防ぐためだ。
ちなみに私はノートに手書き派である。
昨日の水が入ったままのケトルでお湯を沸かす。ここでも私は昨日の続きを生きている。
ここ最近の悩みでもあるのだが、酒を飲みすぎている。ニューヨークに引っ越してきてからというもの、メスカルというテキーラの接種が多い。二日酔いになりにくい酒と言われているのだが、それなりの量を飲んだらどんな身体にも支障が出るものだ。昨日のメスカルも透明で透き通っていていた。そんなことを書いていると、メスカルのあのスモーキーな香りが鼻とこめかみの間によみがえる。沸いたばかりの熱々のお湯を冷ましながら飲む。二日酔い特有の、胸の辺りのモヤがいくぶんか流れていく。
昨日の記憶をノートに出し終えると、脳みその二日酔いもだいぶ良くなってきた。昨日のパーティーの情報量ったらもう。
さて、ようやく12月17日木曜日の始まりだ。
12/17より後に書かれた「12/17」の日記
東京滞在二日目、今日はゆっくりと起きたけれど、マンションの更新とか母と姉の不用品のリサイクルとか用事を片付ける必要があった。実家で過ごすのと変わらずやらなければいけないことに向かっていると、ふと自分のやりたいことをしたい気持ちが沸いた。だから、少し悩んでいたけれど下着屋さんに行くことにした。他人からは見えなくとも、洋服と同じように肌に身につけるものは気分を整える大事な要素だから、選ぶ時間もとても楽しかった。自然と最近選んでいなかった色ばかりを手にとっていたのもおもしろい。新調したものを早く使いたいけれど、少し我慢して新年に合わせることにする。
そして、今夜は友人二人とクリスマスにかこつけて食事をする約束があった。彼女たちとは数年前にも同じ時期にこうして一緒に時間を楽しんだ。代官山と恵比寿の間の素敵なお店だったが、その内装からは想像できないほど大声で話さないと会話が聞こえなくて笑った思い出がある。今回も麻布台の雰囲気の良いお店を選んでもらったが、今度は頼むものがことごとく売り切れでまた三人で笑った。こうして来年もくだらないことを言って笑い合える時間を過ごせることを願う。そういえば、高級なクリスマスマーケットは経験したことがなくて、不思議な気持ちであった。ちょっと早いけれどジョワイユー・ノエル!
朝8時に起床し、午前中の作業を終え、昼にはベーコンを焼いてサンドイッチを作って食べた。一息ついてから窓の外を眺めてみても、屋根を闊歩する不良男児などはついぞ現れることもなく、僕の作った未来日記は実現することもなく、そのおかげで憂鬱な気持ちも味わずに済んだ。
今日は、帰国にあたって、パリでの自分の身分登録を抹消する日と決めていた。銀行解約、保険証解約、交通カードの解約、住宅補助の解約などである(電話番号は念の為、保持しておくことにした)。来たばかりのときはどれも取得するのに苦労したので、解約も面倒な作業を予想していたが、案外簡単なものである。大抵のものはオンラインで申請できるか、手紙を出すだけであとは勝手にやってくれる。解約にはずいぶんと協力的で、相手の顔も見えないが、まるで僕が立ち去るのを歓迎しているかのようだ。銀行の口座開設の時は、担当の者と顔と顔を突き合わせて、ほとんど泣きそうになりながら悪戦苦闘したことを憶えている。
(もっとも、大家はそれほどすんなりとは帰してくれない。部屋のあちこちにつけた染みやカビの跡はそう簡単には消しされないもの。)
今日は妹の誕生日だ。2歳違いの妹、冬生まれ。
「今年も良い1年になるよ!」と毎年ありきたりの言葉を投げかけているのだが、昨年は彼女にとって良き1年だったのだろうか。
私が住んでいる世界は日本より13時間遅れているので、もう日本は17日が終わるころだ。
本日は母親とランチに行ったらしい。
起きたらいつものように朝の日記を立って書く。
日本から持ってきた、コーヒーのドリップバックが最後の1つとなっている。
コーヒーのストックがなくなると、やたら不安になるので、今日は飲むのを我慢した。
私はいつも、最後の1つや最後の一口や、最後の1ページ、最後の言葉、1章、1文字、が苦手な人間だ。
昨日作ったポトフを温め始める。
ポトフのスペルって、やっぱり面白いよな、pot-au-feuって書くんだよ。フランス語で3語、日本語で3文字なの。
今日も寒いのでさらにポトフが身体にしみる。
今日はずっと観れていなかったテレビドラマの最終話を見ると決めていた。
最後の最後を見れなくて数週間放置していたものだ。
嫌々ながらだが、何かを終わらすことが大事な時もあるものだ。
なくなってしまうのは惜しいが、ポトフの最後のひとすくいまで飲み干す。

