Jeux de mots
今月のことばあそび
毎月変わるお題と文字数に合わせて、自由に自己表現を楽しむ場所

オリジナルの文をそれぞれ自由に書き換える文体練習。
レーモン・クノー『文体練習』を参考に「視覚」に着目。
レーモン・クノー『文体練習』を参考に地の文をオリジナルで作成
山手線の車両の中、座席がまばらに空いている。
上下スーツの35歳ぐらいの男、髪が胸ポケットの辺りまで伸びている。髪は長いが、整っている。息を切らして、車両に飛び込む。乗客の視線が集まる。電車の扉が閉まると、乗客が手元のスマホを見る。
30分後、目黒駅のバスのロータリーの前で、その男をまた見かける。隣にいた女が、「眉頭の毛、切ったほうがよかったんじゃない?」と言う。女は身振り手振りで説明する。
57番目の「視覚」に着目した文体練習
東京の輪の一部を、歯車のような鉄の箱がぐるぐると回っていた。
そこに通じる扉が、舞台の幕だとすれば、一頭の黒馬が光るタテガミを靡かせて、ひらりと飛び込んできた。幾度も頭を上下に振る動作をして、まさにショーの後のおじきをした。
その後ウィリアム・モリスの唐草模様に見えないでもない、短い鼠色の毛がびっしりと生えている座席に身を置いて観客の一部となった。
時計の長い針が180度回転したころ、別の鉄の箱が集まる巣の前で黒馬を再度見かける。その傍らには桃色の外套を纏ったフラミンゴのような女がいて、黒馬の眉毛のはじまりのあたりを突いていた。
それは幾重にも連なった箱型の密室で、流れゆく風景を映し出す巨大なフレームと、テレビのような小さなフレームに囲まれている。天井から垂れ下がる緑のトライアングルが、箱に伝わる振動によってわずかに揺さぶられる。その下には緑とグレーのL字型のかまぼこがまっすぐ伸びていて、その上になにやら布を纏った生物らしきものがぽつりぽつりと佇んでいる。振動の停止とともに突然の闖入者。全身黒づくめの生き物で、頭のてっぺんに細長い毛を生やしている。ツヤはあるが少し乱れているようだ。そいつが飛沫を撒き散らすと、周りの生物が一斉にびくっと反応する。
そいつは次の箱を待つために屋根の下にいた。青い羊毛に包まれ、頭に赤い薔薇の花を咲かせた者が近づいてくる。羊毛の中から5つに枝分かれした寄生生物が顔をのぞかせ、そのうちの1匹が黒づくめのやつの顔の前で身体を反らせた。
均質のメタリックの素材の上には太陽が照りかえり、そこから光沢をうっすらと誇っているらしいが、それでもよく見ると表面には埃と汚れがびっしりとこびりついており、それから金はかかっているのだろうが、デザインと質感の観点から見るといかにも安物といった、そのような電車の車両の内側にいて、どうやらパイル織物と呼ばれている丈夫で分厚いが、硬くて、お世辞にも居心地が良いとは言えない生地の敷かれた、緑とグレーといった申しわけ程度に彩色された座席(お尻を付けるところがグレーで、背もたれの方が緑色なのだが、背もたれの方はよく見ると、薄い緑、中間の緑、そして濃い緑と三種の緑が無数の小さな四角に覆われて、おおむねランダムに並んでいる)に座っていると、茶色の、すてきな革靴を履いた男が入ってきた。
それはビルケンシュトックの革靴であり、彼の全身を覆うフォーマルなスーツとはどうしても不揃いな印象を与える。というのも、その靴は足の前足部を覆う部分がゆったりと丸みのある形をしており、その大きなカーブ(さながら、日光のいろは坂のカーブよりずっと緩やかであり、車だったらそこまで減速せずとも通過できるだろうなと思わせる余裕のカーブである)のせいで、正装には合わないつくりになっていたからだ。もっとも、ものすごく高価なものというわけではないが、弧を描いたその革靴は、ぱっと見て「うん、はい、分かった」と、全体のデザイン性とその価値を瞬時に把握できるような代物、つまりは、機能性重視といった言い訳を掲げてもしかすると必要でもあったかもしれない手続きをすっとばして大量生産された安価な革靴とはほど遠く、何度も何度も同じ弧を描くことを繰り返し、周囲からそんなことやって何になるのと言われながらもそれでも昼夜問わず弧を描き続けて、ようやくその弧にたどり着いたといったような、書道家なのか、画家なのか、デザイナーなのか、誰だか知る由もないがそんなとあるバカ正直な芸術家の感覚と経験をその一つの線に凝縮せしめたような見応えを感じさせるものがあった。
その数分後、私はその靴を履いた男を再び別のところで見かけたが、よく見るとずいぶん長い髪をしており、それもやっぱりスーツとはちぐはぐだと思った。
これは、ウグイス色の長い箱でいくつも連なっています。接続部の断面は横が長めの長方形で、側面にはガラス窓がついています。
この動く箱は、朝の数時間には隙間もないくらいの人で溢れますが、昼前には箱の重量がぐんと減ります。
1本の線が空間に運ばれるや否や、粉々に散ったものだから、すぐさま霧散した線の一部は集合し円をつくります。空間の中心をかっさらい、少し宙に浮いた後また元の1本の線に戻っていきます。
幕間を挟み、1本線はある場所にとどまり、その周りを別の赤い線が活発に動いている様子が顕微鏡から覗かれます。

